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イノチノツカイカタ第1部《幼年編》第11話「大丈夫」

第1話から読んでない方はホームからどうぞ。


 今日の保育園は、なんだか落ち着かない。

 別に悪い事とかじゃないけど、みんな少しだけ異様なテンションになっている。

 普段は笑わないことでもゲラゲラ笑い、なんの意味もないチョッカイを出している。

 明日は卒園式…、そのことがボクたちをそうさせているようだった。

 今日はその準備のため、卒園する15名の園児だけしか来ていなかった。

 いつもの4分の1くらいしかいない。

 みんなが異様なテンションでワイワイガヤガヤと騒いでいるのは、少しでも黙ってしまうとシーンとした空気が流れてしまい、寂しくなってきそうだったからだろう。

 ボクもそんな雰囲気の中、地に足がついていないようなフワフワとした感覚で友だちとジャレ合っていた。

 寂しさが襲ってこないように…

「みんなゴメンねぇ~ ほったらかしにしてゴメンゴメン」

 ユウコ先生が慌てて教室に入ってきた。

 先生たちは、明日の卒園式の準備があるので、朝の挨拶が終わってからもアチコチと駆けずり回っていたのだ。

 ユウコ先生は、首にかけたピンクのタオルで汗を拭きながら、

「もう用事が終わったから大丈夫よ。さぁみんな、何して遊ぼっか?」

 と、待ちくたびれているボクたちに微笑んできた。

 ユウコ先生の、そのニコッとした顔を見たボクたちは、

「鬼ごっこ」「かくれんぼ」「缶けり」「ダルマさんがころんだ」

 などなど、みんな手を挙げ声を上げ、思い思いに注文した。

 パンパンッ

 ず~っと遊びを言い続けているボクたちを見て、ユウコ先生が手を打ってみんなを注目させると、{静まれッ}のポーズをしたあとに号令をかけた。

「よぉ~し、今日は全部やろう! 今みんなが言った遊び、全部やろうッ! とことんやろう。さぁみんなッ、運動場に集合~ッ!」

「わ~ッ! やったぁ~ッ!」 

 ボクたちは、クモの子を散らすように運動場に飛び出した。

 ユウコ先生も、日焼け防止だか何だか知らないけど、チューリップハットをかぶりながら出てきた。

 そのあとの運動場はヤンヤ、ヤンヤの大騒ぎ。

 常日頃、言うことを聞かないボクたちに、今までのうっぷんを晴らすかのようにユウコ先生が、手加減容赦一切なしで遊びを挑んできた。

「ウォリャァァァァァッ、お前だけは許さんぞぉ~」

 初めて見るユウコ先生のその姿に引っ張られたボクたちも、

「なにを~ッ! んなことは机の上を片付けてから言え~ッ、このガサツ女ぁ~ッ」

 っとまぁそんなことを口走りながら、みんなで一緒に遊びに遊んだ。

**********

 そうやってずっと遊んでいると、

「みんなぁ~、お昼ですよぉ~ッ!。こっちに来て下さぁ~いッ!」

 とマチコ先生の声がした。

 やさしくて、ホントによく通るキレイな声だ。

 そのマチコ先生の方を見ると、何やらクルクルと巻いた青いビニールシートや、風呂敷で包んだ四角い荷物が足元にいっぱい置いてある。

(んッ? まさか?)

 みんなでマチコ先生の元へ{わぁ~ッ}って駆け寄ると、ユウコ先生が、

「給食のおばちゃんたちは今日お休みだけど、きのう、明日のお昼ご飯は用意しなくていいよって言ったでしょ。だから~」

 と、いつものように少しもったい付けてから発表した。

「今日は特別に、みんなのためにマチコ先生がお昼ごはんを作ってきてくれましたぁ~ッ、みんな拍手ぅ~ッ!」

「うわ~ッ」「やったぁ~ッ」「イヤッホ~ッ」

 パチパチパチパチ

 マチコ先生は、拍手喝采で喜んでいるボクたちの姿を見ながら、

「さぁみなさん、園内ピクニックをしましょう。どこで食べましょうか?」

 と言ってきたので、ボクたちはさらにヒートアップした。

「うおぉ~ッ」「やったぁ~ッ」「園内ピクニックだぁ~」

 興奮して騒ぐ卒園する園児たちを微笑ましく見ながら、ユウコ先生が、

「ほらほらッ、マチコ先生が持ってる青いシートをみんなで広げましょう!」

 そうボクたちに言うと、マチコ先生が持っている青いビニールシートに全員が群がった。

 するとだ。

「ボクが持つ」「私が持つ」「チョットどいて」「痛い」

 案の定、青いシートの取り合いが始まってしまった。

 いつもなら、ユウコ先生やマチコ先生は少し怒ったように制止するけど、今日はそんな光景にも先生は見守るように微笑んでいた。

 そんなこんなでボクたちと先生は、運動場のど真ん中に陣取って園内ピクニックを開始した。

「それではみなさん、めしあがれッ」

「いっただっきまぁ~すッ」

 マチコ先生が作った段々に重ねたお弁当箱をボクたちが開けると、次々に、

「すげッ」「おいしそぉ~」「豪華ぁ~」

 などの賛辞の声が飛び交った。

 ホントに豪華だ。お正月のデパートでも売ってないほどの豪華さだ。

 みんながそうやってマチコ先生のお弁当に驚いていると、突然ユウコ先生が、

「うわッ、性格ッ」

 と小声で驚いていたので、そのお弁当箱をのぞいて見た。

(おお~ッ!)

 初めて見た。

 その箱には、定規をあてて切り揃えたかのような、そしてビッシリと鍛え抜かれた軍隊のように黄金に輝く卵焼きが、ピシッと整列していたのだ。

 そして食べてみて、またビックリ! 

 ほとんど味がしない…

 超がつく薄味…

 カラフルな見た目とは大違いだ。

 しかしだ。

 その超薄味に驚いているボクたちを、マチコ先生はメガネをキラッとさせて、{さぁ、たんとお食べなさい}という感じでニコニコしながら見ている。

(マズイ…、あのモードだ)

 そのマチコ先生と眼が合ったユウコ先生は、慌てて笑顔を作ったあと即座にお弁当に視線を落とし、{コイツは困ったぞ}みたいな顔をしている。

 すると、そんなユウコ先生がゴクンとツバを飲み込むと、

「マチコ先生の料理って、お、お上品な味付けねぇ~」

 って、やってのけた。

 それを聞いたボクたち全員は、ユウコ先生をジト~ッと睨んだけど、ボクたちと眼が合った瞬間に{ヤバッ}という感じで視線を外し、それ以降は眼を合わせてはこなかった。

 ユウコ先生は、まんまと逃げた。

 さぁ、困ったのは残されたボクたちだ。

 ボクたちの祈りはただひとつ、

(頼むッ! ムーちゃん…しゃべるなッ!)

 この一点だった。

 でも、そんな心配は無用だったようだ。

 なんとムーちゃんが、ガツガツと食べ出したのだ。

 しかも、{うまい、うまい}と言いながら食べている。

 ボクたちは一気に肩の力が抜けた。

 以前から、{そうじゃないかな?}って思っていたけど、やっぱりそうだ。

 ムーちゃんは、味覚もオンチで間違いない…。

 でもボクたちは今回、このポンコツ味覚オンチに…、いや、ムーちゃんに助けられたようだ。

 そうしてボクたちが、ホッと胸を撫で下ろしていると、

「ほら、ほかのみなさんはどうしたの? たくさん食べて下さいね」

 と、場の空気が読めないマチコ先生が涼しい笑みで催促してきた。

 でも、気が楽になったボクたちは、

「おいしい」「うまい」「コレいいねぇ~」

 などの言葉をなんとか使いながら食べることができた。

 ムーちゃんサマサマだ。

(やっぱりとんでもないヤツだなムーちゃんは…、マチコ先生もだけど…)

 ボクは、なんだかワケのわからない理由で自分自身を納得させていた。

 そんな感じのお昼のあとは、マチコ先生も交じって一緒に遊んだ。

 しかし、相変わらずマチコ先生は超がつく運動オンチだ。

 縄跳び、フラフープ、竹馬ができないのはもちろんのこと、ブランコに乗って酔ってしまう先生なんてそういやしない。

 でも、そんなマチコ先生も、いつも以上にニコニコとしていた。

 ボクたち、ユウコ先生、そしてマチコ先生も、一緒になって一所懸命に遊んだ。

 ホントに、今日という日を一所懸命になって遊んだ。

 今日という日が、終わらなければいいのに…

 その思いを隠しながら…

 こうして卒園式の前の日…、終わってほしくない今日という日が、

「さぁ… みんな…」

 少し寂しげなユウコ先生の声で、その終わりを告げた。

**********

「じゃ、先に出かけるぞ」

 卒園式は10時からなのだけど、今はまだ9時少し前だ。

 保育園までは、大人がどんなにゆっくり歩いても15分とかからない道のりだけど、体の悪い父ちゃんは、休み休み休憩を取りながら行くので1時間くらいかかる。

 そのための早出だった。

「いってらっしゃい。あとでね」

「おお」

 きのう貰ったマチコ先生のお弁当の残りを食べながら父ちゃんを見送った。

 ボクは、去年卒園した近所のお兄ちゃんの御下がりを着て、毎朝見ていた子ども番組のテレビをつけた。

 でも、なんだかソワソワして落ち着かない。

 ユウコ先生が、{明日は9時30分に来てください}と言ってたので、最後のいい付けくらい守ろうと、9時30分少し前に終わるテレビをつけたまま、映像や音をうわの空で眺めていた。

 でも、なんにも頭に入らない状態だった。

 パチンッ

 テレビが終わったので、ボクはテレビを消して弾丸のように家を飛び出した。

「おはよう」

「はい、おはよう」

 近所の人たちだ。

 みんなしてゾロゾロ保育園に向かっている。

 それは、この村では昔からのしきたり?で、卒園式や入園式なんかは村全体の行事と思っているので、みんな当たり前のように参加するのだ。

 仲が良いのか、ヒマなのかは分らないけど、ホントに不思議な村だ。

「おはよう」

「おう」

「おはよう」

「はい、おはよ」

 おじいちゃんやおばあちゃんにぶつからないように駆けて行っていると父ちゃんがいた。

 座って休憩を取りながら新聞を読んでいる。

「先に行っとくね」

「おお」

(父ちゃん、このペースだったら卒園式には間に合うな)

 そう思ったボクは父ちゃんを追い抜くと、ギアをトップに入れて駆け抜けていった。

**********

 保育園が見えた。

 もう続々と集まってきている。

 門の前で、藤色の洋服を着たユウコ先生と、桜色の洋服を着たマチコ先生がお出迎えをしているのが見えたボクは、興奮状態でその中に飛び込んでいった。

「おはよう! ユウコ先生ッ」

「おッ! 来たな悪がきボウズ。おはよう」

「おはよう! マチコ先生ッ」

「はい、おはよう」

 ユウコ先生もマチコ先生も、とってもキレイな服を着てる。

 それに普段はスッピンなのに、お化粧をしているせいでボクは少しテレてしまった。

 そのテレたボクの姿を見て、マチコ先生は{どうしたの?}という表情をしてる。

 でも普段、ガサツなユウコ先生は違った。

 ボクがテレながらユウコ先生を見ると、なんとユウコ先生もテレだしたのだ。

 そんなユウコ先生を見ていたら、なんだかボクはもっと恥ずかしくなってきたので、

「ユウコ先生、やるぅ~ッ」

 と言って、テレ隠しをした。

 するとどうだ。

 ユウコ先生の顔がみるみる真っ赤になっていく。

「うるさいわねぇもうッ! 早く行きなさいよッ」

 ユウコ先生は真っ赤な顔してそう言いながら、ボクの背中を{早くあっち行けッ}って感じで、パシッて叩いてきた。

 その叩かれた拍子でパッと運動場を見てみると、もうすでに輪になって遊んでいる友だちを見つけたボクは、その輪をめがけて一目散に駆け寄った。

「お~いッ」

「オ~ッス!」「おうッ」

 友だちの元気な声がボクを迎えてくれた。

 でも、今日は卒園式ということと、そしていつもの水色の園内服じゃなくて、みんな揃って{おめかし}をしていたせいで、テレが入ったチョッピリ違う元気さだ。

 ボクたちは当然のように、おめかしを題材にして{けなし合い}を始めた。

 すると、これまた当然のように、あとから来た友だちが1人加わり、2人加わりと増えて、けなし合いが盛り上がっていった。

 いつものように…

**********

 ボクたちみんなが輪になって{けなし合い}をやっていると、1人の女の子が輪の外で、なにやらモジモジしているのが見えた。

 誰だろう?と思って近づいたけど、顔を伏せたままなので前髪で顔が見えない。

(…?…誰だろ…)

 その女の子は、真っ白でフリフリのミニスカートの洋服で、頭にはでっかいリボンがついていた。

(近所にこんな子いたっけ? 誰かの親戚の子かな? 村全体の行事だから誰が来てもおかしくないけど、いったい誰だろ?)

 不思議に思ったボクは、思いっきり真下から女の子の顔を覗き込んでみた。

 その女の子は顔を伏せたまま、チラッとだけどボクの眼を見た。

{!}

 そのチラッとだけで十分だった。

「え~~~ッ!、エミちゃん???」

 ボクのその大きな声で、けなし合いがストップした。

 みんなは、その真っ白でフリフリのミニスカートの洋服を着ているエミちゃんの周りに、まるでお化け屋敷にでも入るかのように恐る恐る集まった。

 そうしてみんな、思いっきり真下からエミちゃんの顔を覗き込んだ。

「あれぇ~ッ、ホントにエミちゃんだ」

 誰かがそう言うと、少し間をおいてドッカァ~ンと笑い声が起こった。

 するとやっぱりだ。

 みんながエミちゃんを一斉にけなし始めた。

 そりゃそうだ。

 普段のエミちゃんといえば、髪の毛はボッサボサでジーンズに無地のTシャツが定番。

 活発でアッサリした性格というのが、ボクらの共通イメージだったからだ。

 それがフリフリのミニスカート…

 けなされないハズがない。

「うるさいッ! ほっといてよ、もうッ!」

 エミちゃんは顔を真っ赤にしながらそう言うと、クルッと背を向けてしまった。

 その態度を見たボクたちは、お互いにニヤッと笑い合い、ここぞとばかりにエミちゃんに集中砲火を浴びせかけて、けなしにけなした。

「馬子にも衣装ってこのことか」「エミちゃんに小判」などなど。

 そういう一方的なけなしをずっと続けていると、

「や~い、エミちゃんの、おとこおんなッ」

 と、そのけなしに、エミちゃんが背中越しにピクッと反応した。

 クルッとこっちに振り向いたかと思うと、エミちゃんが眼にうっすらと涙をためたまま、鬼の形相で言い返してきた。

「誰がおとこおんなよ? はぁ? あんただって売れない漫才師みたいなカッコじゃないのよっ! それにあんただってなによ! その古びた温泉宿でやってるマジックショーのアシスタントみたいな&#%*‘$=&’#」

 みんな、少し呆気にとられた。

 でもだ。これでこそエミちゃんだ。

 キレイな洋服を着てるけど、そこにいるのはやっぱり、紛れもないエミちゃんだった。

 とまぁエミちゃんも、こうしていつものけなし合いに、なんとか合流できたみたいだ。

 ボクたちが、そんな感じでワイワイガヤガヤやってると、マチコ先生が早歩きでこっちに向かってきた。

 少し眼が怒ってる…

(もうすぐ卒園式が始まるのに、遊んでるから怒られんのかな?)

 するとだ。

 スタスタとやってきたマチコ先生が、

「あなたたちッ、エミちゃんをイジメてはダメですよッ! おやめなさいッ」

 と言ってきた。

(んッ? イジメ? エミちゃん? なんのことだ?…。マチコ先生も知ってるように、ボクたちはただ普通にけなし合ってるだけなのに)

 ポカンとしたボクたちに、マチコ先生は続けた。

「先生は最初からチャンと見てたんですからねッ! みんながエミちゃんのスカートの中を覗き込んでイジメてたのをッ! みんなエミちゃんに謝ってくださいッ!!」

(ス、スカートの中?…はぁ?)

 みんなあんぐりした…、エミちゃんもあんぐりしてる。

 そんな空気の中、メガネをキラつかせたマチコ先生は、両手を腰にやって口を真一文字にキュッと結び、{早く謝んなさいッ!}というオーラ全開でボクらを睨んでいる。

 どうやらマチコモードに全開で突入しているらしい。

(もうダメだ…、ホントのことを言っても通用しない。言いなりになるしかない…)

 ボクたちに残された道はひとつしかない。

 なのでボクたちは、

「エミちゃん、スカートの中を覗いてゴメンなさい…」

 と、エミちゃんに仕方なく言うと、

「あッ…う、うん…。許して あげる…」

 エミちゃんも申し訳なさそうにボクたちを許してくれた。

 それを見たマチコ先生は満足したように大きく頷くと、スタスタと会場に戻って行く。

 毎度のことながらだけどボクたちは、

(どうにかならんかな、この先生は…)

 と、ため息をつきながらマチコ先生のうしろ姿を見送った。

 でもだ。

 マチコ先生のうしろ姿を見送っていて、ボクたちはハッと気がついた。

「ス、ス、スッゲェ~ッ!」

 卒園式の会場が、飾りつけでスゴイことになっていた。

 会場の内も外も、花や蝶や動物たちで埋め尽くされている。

 すごく華やかだ。

 運動場に集まってる近所の人たちも、

「こりゃぁすごいな。こんなにいっぱい飾りつけをした卒園式は初めてだ」

 そんなことを口々に言っていた。

 ボクたちは飾りつけの近くにいって、ひとつひとつを見て回った。

 ホントに丁寧につくってる。

 しかも立体的にだ。

(スゲ~ッ、キレイでカッコイイ~)

 みんな感動した。

 でも、{ユウコ先生はやってないな}ってのは、みんなが共通に思ってたのは、ほぼ間違いないけどね…。

 先に会場に入って卒園式が始まるのを待ってるお母さんたちが、会場のうしろに張り出してあるボクたちのお絵かきを見ながら笑ってるのが見えた。

 別に怒ってる様子は感じられないので、暴露組はホッと胸を撫で下ろしているみたいだった。

**********

 するとユウコ先生が、

「ほらッ、式が始まるから会場に入ってみんな」

 そう言いながら不意を衝くように、

「そら、つかまえたッ」

 って抱きつくように、ホッとしている最中のエミちゃんをつかまえた。

 それを見たボクたちは、ワ~ッと叫びながらユウコ先生から逃げだした。

 ユウコ先生が「コラ待てぇ~」と追っかけてきては次々に「ほら、つかまえた」と、ボクたちにタッチしていった。

 ワーワー、キャッキャの声が園内に響く。

 これは、{タッチされたらおとなしく言うことを聞く}という、ボクたちとユウコ先生がいつもやっていたタッチゲームっていう遊びなのだ。

 近所の人たちも笑ってる。

 この最後のタッチゲームを見て…

 タッチされた友だちが、チェッとふて腐れながらも、寂しそうに卒園式の会場に入っていく。

 最後に残ったのは、ボクとムーちゃんだけになってしまった。

 ボクとムーちゃんは下駄箱の横に隠れて、そっと息をひそめた。

 でも突然、ガバッと後ろから首根っこをつかまれた。

「つ~かま~えた~ッ」

 首根っこをつかまれたままボクとムーちゃんがうしろを振り返ると、そこにはやっぱりニタ~ッと笑っているユウコ先生だった。

「あぁ~あッ、めっかっちゃった。ちくしょう、終わり終わりッ」

「しょうがないわねぇ、まったく…。あなたたちにはホントに手を焼かされたわ」

「・・・・」

「よりによって、こんな最後の日まで…」

 ユウコ先生の表情が変わった。

 ボクとムーちゃんをジッと見てるその眼に、涙がだんだん溜まっていくのがわかった。

 ユウコ先生は、首根っこをつかんだ手を放すとボクたちに背を向けた。

 うつむいたまま少し肩を上げ、両手のこぶしをギュッと強く握ったユウコ先生。

 そのユウコ先生のうしろ姿に、ボクたちは言葉を失った。

 ユウコ先生が…、泣いているのだ。

 ボクはどうしていいかわからなくなった。

 そして、ユウコ先生の鼻をすする音が聞こえたときだった。

 ムーちゃんが、

「ユウコ先生、大丈夫だよ。ボクたち卒園しても遊びに来るよ。それに小学校行くときも、みんな保育園の前を必ず通るんだしさ…ねッ?」

 そう言ってユウコ先生を慰めた。

「そうだよユウコ先生、大丈夫だよ」

 ボクもムーちゃんに続けて慰めた。

 いや、自分自身を慰めていたのかもしれない…

 それを聞いたユウコ先生は、

「そうだよね…、そうだよね…。大丈夫だよね…」

 と言って空を見上げた。

 それから鼻をひとつすすると、振り絞るような元気さで、

「うん、大丈夫! どこに行っても何をしてても…、きっと大丈夫ッ!」

 ユウコ先生は、自分自身に言い聞かせるように言っていた。

**********

【質問】

 アナタノ サビシサハ ドコカラヤッテ クルノデスカ?

 …ソノ サビシサヲ ナニニ ヘンカン シテイマスカ?

**********

【幼年編《11》大丈夫】おしまい。

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