第1話から読んでない方はホームからどうぞ。
今日の保育園は大変だった。
5人いる先生のうち、ユウコ先生を含めた3人の先生が病気かなんかで休んでたので、ボクたち5~6歳の年長組と、3~4歳の年少組が一緒になって遊ぶことになったのだ。
ボクが年少組のときにもこんなことがあったけど、そのときの年長組のイヤそうな顔の理由が、今やっとわかった。
こういうとき先生は、年少組のペースですべてを進めるのだ。
「じゃぁみんな、今日はこれから、ウサギとカメの紙芝居をしましょう」
「わぁ~い。やったぁ~」
もちろん喜んでいるのは、年少組の子どもたちだけだ。
年長組はというと、
(なんでウサギとカメ? 聞き飽きたよ…)
とまぁ、うれしくもなんともない。
なので年少組の子どもたちは、先生が手にした紙芝居の前にキャッキャと集まり、ボクたち年長組はそのうしろでダラァ~っとしていた。
まぁ、ムーちゃんだけは楽しそうに、最前列のド真ん中に陣取っていたけどネ。
マチコ先生が紙芝居のセットを用意したとき、同い年のエミちゃんが、
「ねぇ、マチコ先生の紙芝居ってさぁ、初めて見るよねぇ?」
と、{ヒマつぶしになるかな?}って顔で聞いてきた。
そう言われてみればそうだ。
ボクが年長組のみんなを見渡すと、みんな{初めて初めて}と、声にならない声で口をパクパクさせながら頷いている。
マチコ先生は、おしとやかで几帳面。
机の上を見ても、いつもピシッとしているし、鉛筆や定規なんかも、まっすぐキレイに整列させるタイプだ。
消しゴムのカスでさえ、美しい先生だ。
欠点と言えば、マジメすぎて冗談がまったく通じないことくらいだった。
机の上がいつも書類の山で、大雑把なユウコ先生とは正反対な先生といっていい。
(普段、おしとやかに話してるけど、マチコ先生ってどんな紙芝居するんだろ?)
みんな膝を抱えて座ったまま、興味津々でマチコ先生の紙芝居を待った。
**********
「ウサギとカメのはじまりはじまり~ッ」
パチパチパチパチ
(おっ、マチコ先生ノリノリだな。こんなマチコ先生、初めて見るぞ)
そのマチコ先生が、{エヘンッ}と咳払いをして紙芝居を始めた。
「ある日のことでした。おい、のろまなカメさん。きみは、どうしてそんなにのろいのかい? とウサギさんがカメさんに話しかけました」
{!}(ヤバイッ!!!!)
ボクはスグに下を向いて、自分の膝の中に顔を隠した。
横目でチラッと年長組を見ると、ほとんどがボクと同じポーズをしている。
隣に座っているエミちゃんは、鳩が豆鉄砲をくらった顔をしてマチコ先生を見てる。
ムーちゃんは最前列で黙って見ているようだ。
でもだ。そんなことはどうだっていいッ!
(ホントにヤバイぞ! コレはッ!)
ボクたちは、おかしくて吹き出しそうなのを必死で堪えた。
そりゃそうだ。
普段はおしとやかでマジメなマチコ先生が…、まさかだった。
(なんだよこのウサギ!、この声じゃ、白雪姫に毒りんごを食べさせるおばぁさんだろ。ヤバイ、吹き出しそうだ…、いや、吹いちゃダメだ!)
まさかまさか、あのマチコ先生がこんなに豹変して紙芝居をするとは、夢にも思ってもみなかった。
年長組から小さく、クッ クッ クッと、必死で笑いを抑える声が漏れてきた。
マズイ・・・
これは非常にマズイ状況だ。
これがユウコ先生の紙芝居なら、みんなドッカ~ンと笑えたハズだ。
「ユウコ先生ヘッタクソ~」って笑っても、
「どこの誰がヘタクソなのよ! チャンと聞きなさいよね! ふんっ」
って鼻であしらったあと、ニコッと笑って紙芝居を続けてくれる。
でも、このマチコ先生だけはダメだ。
絶対に笑っちゃいけない。
笑えば、おしとやかでマジメなマチコ先生が可哀そうだ。
だから笑っちゃいけない!
ボクたち年長組は、マチコ先生を守るために必至で堪えた。
・・・のだけど・・・
「なんだよウサギさん。それならかけっこで」
(おぉ~ッ、またきた! どっから声を出してんのマチコ先生ッ、なんだよこのカメは!)
ただでさえマチコ先生の声は、よそ行き声で少し高めなのに、それがひっくり返って頭のてっぺんから、素っ頓狂な声を出してしゃべってる。
でも、チラッと見たマチコ先生は、いたって大マジメだ。
しかもノリノリだ。
(ダメだ、これはいけない。限界だ、見ているこっちが恥ずかしい)
と、そのときだった。
「うわぁ~ッ、マチコ先生、上手ぅ~ッ!」
・・・・ムーちゃんだった・・・
その瞬間、マチコ先生を守ろうとした年長組は崩壊した。
**********
大変だった。
そのあとはホントに大変だった。
ユウコ先生なら、{うるさいわね。チャンと聞きなさいよ}って言うだけで流してくれる。
だけどマチコ先生は違うのだ。
「どうして笑ってるの? 何がおかしいの?」と真剣な表情で聞いてくる。
根がマジメだから流してなんかくれない。
そのあとも、みんなでウソ、言い訳をオンパレードで並べに並べてみたけど、
「何がいいたいの? チャンと言ってごらんなさい」
と、こうくる。
お手上げだ。もう無理か…と、諦めかけたときだった。
「マチコ先生、チョット手を貸して。オムツ交換が追い付かないのよ」
って、2歳以下の幼年組の面倒を見ていた先生が飛んで来た。
それを聞いたマチコ先生は、少し渋そうにボクたちの顔を見渡しながら、
「先生チョットお手伝いに行きますから、あとはお昼までの間、年長組さんが年少組さんの面倒をチャンとみて、いい子にしててくださいね。わかりましたか?」
そう言って、オムツ交換の応援に行くために紙芝居を片付け出した。
「はぁ~い」
元気に返事する年少組と、疲れ切った返事の年長組…
その微妙な返事のハーモニーが教室に響き渡ると、マチコ先生は腑に落ちない顔で首をひねりながら出ていった。
助かった…、でも、どっと疲れた。
すると、ニコニコしながらムーちゃんがボクらに近寄ってくるなり、
「なにして遊ぼっか?」
と、何食わぬ顔で言ってきた。
イラッとしたボクたち全員、{ムーちゃんのせいで大変だったんだぞッ}という思いを込めた眼でムーちゃんをジロ~ッと睨んだ。
そのあとも、粘土遊び、ブロック遊びなんかをして過ごしたけど、年少組というオマケが付いているので、全然楽しめずにその日の保育園が終わってしまった。
**********
家に帰ったボクは、ひとり自転車に乗って下の川に行った。
河原の土手を下りて自転車を投げるように飛び降りると、浅瀬に入って今日のうっぷんを晴らすように水切り遊びをやり始めた。
「どうした坊や、えらくご機嫌斜めじゃのぉ」
ビクッとした。
おじいさんが10数メートルくらい横にいたのだ。
ちょうど橋の下の、日陰の部分にいたのだけど、いつもの黒い服を着ているのでボクはまったく気づかなかった。
「おじいさんいたの! あ~ビックリした」
「フォッ、ホッ、ホッ、まぁ魚でも釣ろうかと思うて来たんじゃが、暑くてのぉ。それで日陰で釣りをしておったんじゃが、どうやら坊やが釣れたみたいじゃのぉ? こりゃ今日は大漁じゃ、フォッ、ホッ、ホッ」
(おじいさんも冗談を言うんだな。アハハ)
ボクは魚が逃げないように、そっと浅瀬から上がると、おじいさんの横に座った。
「また、おじいさんのお話でも聞かせてもらおうかな?」
「ふむ、お話か…。それはそうと、どうしたんじゃな? 不機嫌そうじゃが」
「うん、チョットね…」
それからボクは、今日一日の出来事をおじいさんに話した。
「フォッ、ホッ、ホッ、それは楽しい一日じゃったのぉ、坊や」
おじいさんは、ボクをからかうような笑顔で白髭を撫でていたので、
「楽しくなんかないよおじいさん。ムーちゃんはあんなだし、ウサギとカメの紙芝居だよ? ボク何度も聞いたから知ってるし、聞き飽きたよ。年少組は言うこときかないしさぁ」
うんざりして言っていた。
でもおじいさんは、そんなボクを気にも留めずに話し始めた。
「ウサギとカメか…、ふむ、それではウサギとカメの話でもしようかのぉ」
「えぇ~ッ、もういいよ、十分知ってるし、聞き飽きたよ」
「フォッ ホッ ホッ、では坊や、ウサギとカメの話じゃが、何か感想はあるかの?」
(んッ? ウサギとカメの感想? そういえば…)
ボクは、前々から友だちや先生には、思ってはいたけど言えずにいたことがあったので、おじいさんに話してみることにした。
「あのね、おじいさんボクね…、カメが嫌いなんだよ」
「ほぉ、坊やはカメが嫌いか…ふむ、それはどうしてじゃな?」
「だってそうでしょ。寝ているウサギさんの横を通ってるんだよ」
「ふむ、それがどうかしたのかな?」
「卑怯でしょ。ウサギさんを起こして正々堂々と勝負しないカメさんなんか!」
少し呆気にとられたおじいさんは、
「フォッ、ホッ、ホッ、これはこれは、面白いのぉ」
と、笑い出した。
ボクは、何だか自分が否定されてるみたいな感じがして、少し気分が悪くなった。
(なに笑ってんだよ、このおじいさん。絶対にカメさんの方が悪いのに…。あッ、もしかすると、わかってないんだな? よしッ、ボクが教えてあげよう)
そう思ったボクは、偉そうにおじいさんに話し始めた。
「別に面白くなんかないよ。それで勝ったって意味ないでしょ? たとえ起こしたせいでカメさんが負けても、正々堂々と戦ったカメさんはカッコイイでしょ」
「ふむ」
「でも、お話は卑怯な勝ち方したカメさんが褒められてる…。コレっておかしくない?」
「フォッ、ホッ、ホッ、ふむふむ、面白いのぉ」
またもやおじいさんに笑われたボクは、少しカチンときた。
「チョットおじいさん、マジメに聞いてんの?」
もうボクは、ムッとした表情になっていた。
「いやいや、すまんすまん、悪かった悪かった。それでは坊や、ウサギとカメのお話じゃが、最初のところから聞くがよいかのぉ?」
まだ少し感情がおさまらないボクは、
「んッ? なぁに最初って」
えらく素っ気ない態度だった。
でもおじいさんは、そんなボクをよそに話を始めた。
**********
「それでは坊や、まず、なぜカメさんはウサギさんに勝負を挑んだのじゃな?」
「そりゃぁ、ウサギさんが、カメさんのことをノロマだってバカにしたからでしょ。それでカメさんが怒ったんだよ」
「ふむ、それでは、なぜウサギさんは勝負を受けたのじゃな?」
「絶対に勝てるからだよ。かけっこでカメに負けるわけないよ。寝たりなんかしなきゃね」
「では坊や、もう一度聞くぞ、カメさんは、なぜ勝負を挑んだのじゃな?」
「頭にきたからでしょ?」
おじいさんは、{ふむ}と言う感じで白髭を撫でたあと、質問を再開した。
「では質問を変えるとするかのぉ」
「うん、なに?」
「なぜカメさんは、かけっこで勝負を挑んだのかのぉ? 負けるとわかった勝負でじゃ。ほかの勝負でも良いはずじゃが?」
(んッ?…、そう言われりゃそうだ。なんでかけっこなんだろ? カメさんってバカなのかな? でもなんか答えなきゃ、え~と、ん~と…、そうだ!)
「カメさんは、ウサギさんが寝るのを知っていた。それか、睡眠薬か何か使ったのかな?」
「フォッ ホッ ホッ、愉快じゃのぉ」
「へへへ」
保育園で磨かれたジョーク?がウケたので、ボクは少し気分を取り戻した。
「ではウサギさんは、なぜ昼寝をしたんじゃろぉ?」
(昼寝をした理由?…う~ん)
ひと笑いとったボクは、{これ以上突っ込んじゃ野暮だな}と思って真面目に考えた。
「ん~とねぇ、たぶんウサギさんは、{昼寝をしても勝てるんだぞ!}ってとこを見せたかったんじゃなかったのかな?」
「ふむ、つまりウサギさんは、ただ勝つのではなくて、{こんなに足が速いんだということをみんなに見せたかった}ということかのぉ?」
「うん、そうそう」
「ふむ、では坊やの嫌いなカメさんじゃが、ウサギさんの横を通り過ぎたときは、何を考えておったんじゃろうかのぉ?」
「そりゃぁ決まってるよ。{シメシメ、ウサギさんが寝ているうちにゴールしてやろう}って思ってたんだよ」
「ふむ」
「そしてウサギさんを起こさないように、ソロ~っと抜いていったんだよ。ほらッ、やっぱり卑怯だよカメさんは…。そうでしょ?、おじいさん」
「ふむ、どうやら坊やは、卑怯者がお嫌いのようじゃのぉ?」
「うん嫌いだよ。みんなそうでしょ?」
ボクは卑怯者が嫌いだった。
テレビのヒーロー番組でも、3人やら5人やらのヒーローが、一人の悪者や一匹の怪獣をやっつけるのでさえ嫌いだった。
{お前ら、一対一で勝負せんかいッ!}っていうのが、ボクの持論なのだ。
ボクは正義感たっぷりに、
「卑怯者は、みんな嫌いだよ」
と言って、川に石を投げ込んだ。
**********
「ふむ、みんな嫌いか…、まぁよいじゃろ。それではカメさんは、寝ているウサギさんを起こせばよかったのじゃな?」
「うん、そうだよ」
「では、ウサギさんを起こした場合、物語はどうなるかのぉ?」
「えッ、物語が?」
(どうなるんだろ? ウサギさんはイジワルだから、起きたらそのまま走ってゴールするのかな? それとも{カメさん起こしてくれてありがとう}って心を入れ替えるのかな?)
ボクは、いろんなパターンを考えてみた。
それと同時に、おじいさんがボクに何を言いたいのかも考えていた。
(これも{知らないけど知っている}ってことなのかなぁ)
おじいさんは黙って考え込んでいるボクに、ひとつのパターンを聞いてきた。
「では坊や、イジワルなウサギさんがカメさんに起こされて、カメより先にゴールしたとしよう。そのときはどうなるのじゃな?」
「そりゃぁ、ウサギさんの勝ちになるよ」
「そうじゃのうて、みんなは勝ったウサギさんに、なんて言うのかのぉ?」
「{やっぱりウサギさんが勝ったな。足が速いやウサギさん}って感じかな?」
「ふむ、では負けたカメさんは、みんなになんて言われるのかのぉ?」
「{やっぱりカメさんが負けたよ。かけっこでウサギさんに勝負を挑むだなんて無茶なんだよ。でもまぁ、全力尽くしてよく戦ったよ}って、なると思うけど…」
「では坊や、起こされたあとに、イジワルなウサギさんが良いウサギさんになった場合…、としてみようかのぉ」
「起こされたあとに、良いウサギさんになった場合?」
「そうじゃよ。起こされたあとにウサギさんは、良いウサギさんになるのじゃ。その場合は、どうなるのじゃな?」
(なんだか変な方向になってきたなこの話…。え~と、ウサギさんは良いウサギさんになったとして考えるんだっけかな?)
「んとねぇ、たぶん、{起こしてくれてありがとう。今までイジメたり、からかったりして、ゴメンね}ってなって、カメさんと一緒にゴールしようとするんじゃないのかな?」
ボクは、原作がどんなだったかもわからなくなるほど、頭の中が混乱していた。
「ふむ。では一緒にゴールしたのなら、そのときカメさんとウサギさんは、周りで見ているみんなに、なんて言われるのかのぉ?」
「カメさんとウサギさんが、仲良く一緒にゴールしてるんだから、みんな不思議に思って、{どうしたの?}って聞くと思うよ」
「それでウサギさんとカメさんは、みんなになんて答えるのかのぉ?」
「ウサギさんは、{カメさんに起こしてもらって、親切なカメさんをバカにしたことを反省したんだ。だから仲良く一緒にゴールしようって思ったんだよ}みたいなこと言うかな」
「ふむ」
「それでカメさんは、{ウサギさんと正々堂々と勝負したかったから起こしたんだよ}っとでも言うかな」
「それを聞いたみんなは、ウサギさんになんて言うのかのぉ?」
「エライねウサギさん…、かな?」
「それではカメさんには?」
「負けるかもしれないのに、起こしたカメさんもエライよ…、かな?」
「ふむ、そうか。ウサギもカメさんもエライのじゃな?」
「うん、そうなるね。 あッ! そうだそうだよ。ウサギとカメの物語はコレのほうがいいよ。みんなが仲良しになって、めでたしめでたしだよ」
ボクは、新しいウサギとカメの物語を思いついたので、得意になった。
「ねッおじいさん、そうでしょ? あの物語のまんまだと、そのあとにバカにされるウサギさんがかわいそうだよ。だからイジワルなウサギさんが反省して、カメさんと一緒にゴールする。そしたらみんながウサギもカメも誉めてあげる。ホントにめでたしめでたしだよ。あの物語はそう変えたらいい。そうじゃない?」
「ふむ、面白いのぉ」
「ねッ、ほらッ」
おじいさんが、ボクの新しいウサギとカメを認めてくれたから気分がいい。
でも、おじいさんの質問はまだ続いた。
「では坊や、どっちのエライが、よりエライのじゃな?」
(どっちがエライ?)
少し考えた。
でもその答えはスグに出た。
「ウサギさんのエライのほうだよ」
「ほぉ、どうしてじゃな?」
「ボクたちの間でもそうだけど、良い子はいつも良い子だから、少し良いことをしてもそんなには誉められないんだよネ」
「ふむ」
「だけど、言うことを聞かないボクみたいな子は、少しでも良いことをしたら、すっごく誉められるよ。だからウサギさんだよ」
「フォッ ホッ ホッ、ふむふむ、なかなかじゃのぉ」
おじいさんは笑いながら、水面に反射する夕日が眩しいみたいなので立ち上がった。
そして座ったままのボクに話を続けた。
「それでは坊や、最初はイジワルじゃったが、途中で良いウサギさんになったウサギさんは、最初は{すごく速い足}と、みんなに思われたかったのかも知れない」
「うん」
「しかし最後は、{良いウサギさん}に思われた。というワケじゃな?」
ゆっくり振り返りながら、ボクに聞いてきた。
ボクは何かを確かめるようなおじいさんの声色に、少し不安になりながら答えた。
「うん、そういうことになるネ…」
おじいさんが、やけに大きく見える。
そして・・・
おじいさんの表情から笑顔が消えた。
ボクをジッと見下ろしている。
おじいさんは、いつもより少し低い声で、そしてゆっくりとボクに聞いてきた。
「では坊や、坊やが考えた新しい物語、そして元の物語…。そのどちらのウサギさんも、{よいウサギさん}と思われたいがために、カメさんを利用しようとした…」
「・・・・」
「つまりじゃ、ウサギさんは、それを最初っから企んでおったとしたのなら、どうなんじゃろうな?」
ゾクッとした・・・・
(本当は、ウサギさんは起こしてもらうのを…)
「では坊や、カメさんはカメさんで、そんなウサギさんを最初っから見抜いておって、ウサギさんのソレを利用しようとしておったとしたのなら…、どうじゃな?」
「・・・・{!}」
ボクの背中に ヒヤッ とした冷たいものが流れた。
(ホントは、カメさんは…、カメさんって、どう転んでも…)
それからしばらくボクは、おじいさんから眼を逸らすことができなかった。
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【質問】
アナタガ ウサギサンナラ カメサンヲ サイショニ カラカイマスカ?
アナタガ カメサンナラ カケッコデ ショウブヲ イドミマスカ?
アナタガ ウサギサンナラ ショウブヲ ウケマスカ?
アナタガ ウサギサンナラ ヒルネヲ シマスカ?
アナタガ カメサンナラ ネテイルウサギサンヲ ドウシマスカ?
アナタガ ウサギサンナラ オコサレタラ ドウシマスカ?
・・・ソレゾレ ソレハ ナゼデスカ?
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【幼年編《06》ウサギとカメ】おしまい。
【幼年編《07》優先順位】へ