第1話から読んでない方はホームからどうぞ。
今から父ちゃんと一緒に療養センターに行くことになった。
だいたい月に1度、ボクが小さな頃から父ちゃんの療養のために一緒に通っているところだけど、友だちとの約束が流れてしまったボクは、ヒマを持て余していた。
なのでここ1週間、体調の良さそうな父ちゃんを誘ってみると、OKしてくれたのだ。
{まぁ、誘うも何も、本来の目的は父ちゃんの療養なんだけどネ}
その療養センターには、リハビリ施設はもちろんのこと、レストラン、銭湯、娯楽施設なんかもあった。
スグ横にある大きな池では、貸ボートなんかもあるところだ。
とはいっても、小さな頃から頻繁に来ていたボクは、娯楽施設なんかには飽きているので温泉に入ってのんびりするくらいだ。
あるひとつの楽しみを除いてだけど…
その楽しみってのは、ただひとつ。
そこに行くと、ボクの大好きなケンゾー兄ちゃんがいるのだ。
そのケンゾー兄ちゃんは、生まれつき眼が見えない。
いつも真っ黒なサングラスをしていて、杖を突いて歩いている。
でもだ!
とっても穏やかで物静かなケンゾー兄ちゃんは、とってもすごいのだ。
足音を聞いただけで、それが誰なのかをピタリと言い当てる。
ボクもいろいろ足音を変えてみたけど、いとも簡単に見破られた。
この前なんか、数種類の小銭を5枚ほどポケットの中でジャラジャラ鳴らしていたら、その枚数どころか、合計金額まで言い当てたのにはビックリ仰天した。
それに、頭がバツグンにいい。
将棋なんかも会話だけでポンポンやってしまう。
ボクの父ちゃんも将棋はそこそこ強かったみたいだけど、このケンゾー兄ちゃんには1度も勝ったことがない。
ボクもトランプのババ抜きで勝ったことがあるくらいだ。
ボクは、この療養センターに行くと必ずいるケンゾー兄ちゃんに会いにいくのが今回の…、いや、小学校に入ってからは毎回の楽しみになっていたのだ。
**********
緑に囲まれた山の麓にある療養センターにつくと、ボクは父ちゃんをリハビリ施設のあるところまで連れていって、急いで2階のテラスへと向かった。
(あッ、いたいた)
ケンゾー兄ちゃんは、いつもの場所で、いつものように、ビーチでのんびり寝っころがるようなビニール製のベッドに横たわって、気持ちよさそうに日向ぼっこをしていた。
「ケンゾー兄ちゃんッ」
「おッ、チビか、久しぶりだね」
物心ついた頃から知っているとはいえ、だいぶ大きくなったボクをケンゾー兄ちゃんは、いまだに{チビ}と呼んでいる。
そういうボクも、30台後半になるケンゾー兄ちゃんに、{兄ちゃん}をつけて呼んでいる。
こうなると、もうアダ名の感覚だ。
{フルちゃんカンちゃんって、こんな感じで呼び合ってんのかな?}
そんなことを考えながら、ケンゾー兄ちゃんの横に置いてある椅子に座った。
眺めがいい。
ポカポカしてるし空気もキレイだ。
最近、父ちゃんの体調があまり良くなかったので、ここへ来たのは4ヶ月ぶりだったけど、きのうもここに来たような錯覚に陥るほど、ボクにとっては落ち着く場所だった。
2階のテラスから見える池の上で、スイスイと気取って泳いでいるアヒルを眺めていると、ケンゾー兄ちゃんが物腰やわらかく話しかけてきた。
「チビは、もうじき中学生なんだよなぁ、あっという間だよな」
「うん」
「小学校の卒業旅行は楽しかったかい?」
「うん、それなりにね…」
「何かあったのかい? イマイチ乗ってないようだけど」
「うん…」
少し低くてシットリした声だ。
ボクは、その声に引き込まれるように、小学校の卒業旅行での思い出話をした。
「ボクたちが泊まった旅館に、よその小学校も卒業旅行で泊まってたんだよ」
{コクリ}
「それで、{どこからきたの?}とかいろいろ聞いてるうちに、ボクたち仲良しになったんだよ。ボクの部屋の5人と、隣の部屋に泊まってた、よその小学校の6人がね」
{コクリ}
「でもその中に、片足のない男の子がいたんだよね」
{コクリ}
「あとからその男の子に聞いたんだけど、なんか2歳くらいのときに病気で切断したって言ってたよ。見せてもらったけど、足の付け根と膝の中間くらいから足がなかったよ」
{コクリ}
兄ちゃんの相槌は、いつも{コクリ}と頷くか、{フッ フッ フッ}と笑うだけだ。
なので調子に乗ったボクが、一方的に喋りまくることなんか、よくあることだった。
そういえば4ヶ月前も{チビか}{またな}の、ふた言しかしゃべらなかった。
いや、しゃべらせなかったのかな?…
「んで、いろいろ話してたら、明日観光する場所も時間も同じだったから、自由時間になったら一緒に観光しながら遊ぼうよ。ってことになったんだよね」
{コクリ}
「それで自由時間のとき、一緒に自然公園を見て回ったんだけど…」
{コクリ}
「はぁ~…」
ボクがため息をついて黙っても、いつもケンゾー兄ちゃんはボクを待ってくれた。
「はぁ~…」
もう一度ため息をつくと、小鳥がピーチクパーチク鳴いている中、おじいさんに話しても{ふむ、ふむ}と言う以外、何も返事をしてくれなかった悩みの種を話してみた。
「あのねケンゾー兄ちゃん、それで10人くらい固まっていろいろ見て回ったんだけどさぁ、そのときにボクが図鑑でも見たこともない小さな動物を見つけたんだよ」
{コクリ}
「それで、少し散らばってたみんなに{来て来てッ! なんか変な生き物がいる。早く早くッ}って声をかけたんだよ」
{コクリ}
「みんなスグにワ~ッって集まってきて、{なんだアレ? すげぇ!}なんて言ってたけど、片足のない男の子は、まだ少し遠くにいたんだよね。松葉杖を両脇に抱えてね」
{コクリ}
「でも早くしないと、その動物がどこかにいなくなったら見れなくなるから、ボクがその男の子に向かって、{早く早くッ! 急いでッ!}って急かしたんだよ。そしたら…」
{コクリ}
「はぁ~…」
またボクは、黙りこくってしまった。
黙りこくったどころの話じゃない。
ボクはそれから30分以上、ため息もつかずに黙ってしまったのだ。
ケンゾー兄ちゃんは、それでもボクを待っている。
のんびりだとか、気が長いだとか、そんなんじゃない。
ケンゾー兄ちゃんが、ボクやその話に興味がないとかでもない。
たとえ今日、この話の先を話さずに{じゃぁね}と帰ったとしても、ケンゾー兄ちゃんは、{またな}って言うくらいだろうし、ましてや{話の続きは?}なんてことは言ってこない
ケンゾー兄ちゃんのそれは、ただボクを待っている。という状態…
それだけなのだ。
**********
(あッ、そうだ、話の途中だったんだ)
そう思い立ってケンゾー兄ちゃんを見たけど、なんら変わる様子がない。
ただ、ボクのその雰囲気を感じると、ボクの方を見て軽く微笑んできた。
(すげぇよな。ボクだったら脳の空白を埋めたくなるから、こんなに待つなんて絶対に無理だな…。おっとっと、イケねぇイケねぇ、話さねぇと)
「えっと、どこまで話したっけ? あッそうそう、片足のない男の子を呼んだんだ」
{コクリ}
「そしたらね。ボクの同部屋の男の子数人が、{かわいそうだろ}{やめろよバカ}って、小声でボクを小突きながら言ってきたんだよ」
{コクリ}
「そしたらさぁ、ウチの担任の先生もそれを見てたみたいで、駆け寄ってくるなりボクを脇に連れていって、{足の悪い子に、そんなこと言っちゃイケませんッ、かわいそうでしょ!}って、怒られたんだよね」
{コクリ}
「ねぇ、ケンゾー兄ちゃん、{かわいそう}ってなんなの? ボクって間違ってるの?」
「フッ フッ フッ チビは、そのままでいいよ」
「・・・・」
(まただ。チビはそのままでいいって…)
ケンゾー兄ちゃんは、この{チビはそのままでいい}で終わらせることが多かった。
ボクは今それを聞いて、今日こそは何がそのままでいいのかを聞こうと思って、ケンゾー兄ちゃんにせがんでみた。
「ねぇ、ケンゾー兄ちゃん。ボクがそのままでいいって、どういうこと?…教えてよ?」
「ああ、いいよ」
「・・・・」
拍子抜けした。
毎回これを質問しても、フッ フッ フッ で終わらせていたのに、今日はアッサリと…ふたつ返事で快諾。
ボクの頭の中を、アホーッ、アホーッとカラスが鳴きながら通り抜けていった。
***********
「チビ?」
「えッ、あッ、なに?」
「チビが小学校に上がったころ、この目の前にある池で魚を釣ったのは覚えているかい?」
「池で? …あッ、思い出した。釣った釣った。んで、そのあと怒られたんだよ。こっぴどく」
ボクは、この池の魚が飼われている魚だとは知らずに釣ったことがある。
そのときは、飼育してた貸ボート屋のおいちゃんにメチャクチャ怒られた。
そりゃそうだ。だって立派な錦鯉だったんだからネ…
「アハハハハ」
「フッ フッ フッ 」
「魚を釣り上げたとき、チビは僕になんて言ったか覚えているかい?」
「うん、覚えてるよ。ボクはケンゾー兄ちゃんに、{釣れたよぉ~ッ、ほら見てぇ~ッ}って、下から2階にいるケンゾー兄ちゃんに向かって大きな声で叫んだんだよね。まぁそれで魚を飼育してる人にバレて、コテンパンに怒られたんだけどね。アハハハハ」
「フッ フッ フッ 」
「フッ、フッ、フッ じゃないよぉ。ケンゾー兄ちゃんも釣っちゃイケないってことを知ってたなら教えてよ、もうッ! アハハハ」
「フッ フッ フッ それと、チビが絵画コンクールで賞を取ったときに、僕にその賞状を{ほら見て、賞状もらったんだよ}って手渡してきたよね?」
「うん」
「眼の見えない僕に…」
(あッ…そう言われりゃそうだよな…? 見てってのはチョットおかしいよな…)
ボクがそんなことを思っていたら、ケンゾー兄ちゃんが卒業旅行の話に切り替えた。
「チビ? その片足のない男の子に早くおいでって急かしたとき、その男の子はどんなだったか覚えているかい?」
「ん~とねぇ、急いでこっちに来てたよ」
「どんな表情だった? 雰囲気は?」
「ほかのみんなと一緒で、どんな動物か見てみたかったみたいだよ。ワ~ッ、って感じで楽しそうだったよ」
{コクリ}
ボクがそう言うとケンゾー兄ちゃんは、黙って穏やかに微笑んでいた。
「兄ちゃん、どうしたの? ボク、なにか変なこと言った?」
「フッ フッ フッ そのときのその男の子は、今の、そしてあのときの僕と同じ気持ちだったんだろうなって思ってたんだよ」
「ケンゾー兄ちゃんと同じ気持ち? その子が?…」
{コクリ}
(?・・・)
「チビ、その男の子とは、そのあとはどうなったんだい? 教えてくれるかい?」
「・・・・」
ボクは、ケンゾー兄ちゃんがめずらしく突っ込んできたので、少し戸惑ってしまった。
ボクはこのとき、なんにも知らなかった。
来月から手術をするために海外に行ってしまい、もう二度と会えなくなる事なんか…
今日が、このケンゾー兄ちゃんと最後の会話になるとは…
ボクは、この戸惑いや違和感を…なぜこのとき放っておいてしまったのだろう…
**********
「んとねぇ、旅館に帰って晩御飯を食べたあとの自由時間に、その男の子がボクに遊ぼうよって言ってきたから、2人で少しの間、一緒に遊んだよ。それがどうかしたの?」
「そのときチビは、その男の子に最初、どんなことを聞いたんだい?」
「最初?… 最初は名前を聞いて、それからなんで片足がないのかを聞いて… それから、え~っと、それから…」
{それから}の先を考えていたボクに、兄ちゃんの質問が割って入ってきた。
ケンゾー兄ちゃんが話をさえぎってくるなんて、そんなの初めてだ。
ボクは、ほんの少しの違和感を覚えながら、兄ちゃんの質問に耳を傾けた。
「どんな雰囲気で、チビとその男の子の会話は進んだんだい?」
「普段、ボクが友だちと遊ぶような感じだよ。ゲームとかマンガとかの話をするみたいにネ」
「楽しかったかい?」
「うん」
「その男の子は?」
「ボクと一緒で楽しそうだったよ。ゲラゲラ笑いながら、いっぱい話してたもん」
「フッ フッ フッ やっぱりか… フッ フッ フッ 」
「何がやっぱりなの?」
「チビが最初にした男の子への質問…。そして僕の気持ちと、その男の子の気持ちだよ。フッ フッ フッ 」
「{?}…なんのこと? ボク全然わかんないんだけど…」
ますますわからなくなったボクは、普段あまりしゃべらないケンゾー兄ちゃんだけど、今日はよく会話してくれるので、とりあえずジッと待ってみた。
**********
「チビ?」
「なぁに?」
「だから、チビはそのままでいいんだよ」
(・・・・?)
「だからって… そのだからって、なんなの?」
「チビといると、心地良いんだよ」
「えッ、ボクといると?」
「そうだよ。その男の子も、チビといると心地良かったんだよ」
「なにが心地良いの? ボク、その男の子に何かした? みんなからは白い眼で見られるし、先生からも怒られたよ。それにケンゾー兄ちゃんにも… ボクは何をしたの?」
「チビ… 周りは関係ないんだよ。僕も、その男の子もね」
「・・・・」
もう待てない。
やっぱり待ってなんかいられない。
「ケンゾー兄ちゃん、もういい加減に、お・し・え・て・ちょ・う・だ・いッ」
ボクは、ケンゾー兄ちゃんに強めに食い下がった。
「フッ フッ フッ チビ?」
「なに?」
「チビは気を使わせないんだよ。それが心地良いんだ、とても」
「気を使わせない? それってなぁに?」
「ほら、そういったところだよ、チビ。フッ フッ フッ 」
(???)
「でも周りは怒ってるよ。ケンゾー兄ちゃんは関係ないって言うけどさぁ…」
「フッ フッ フッ そこを超えた人なら心地良いんだよ」
「・・・・」
(ヤバイッ… おじいさんと一緒のパターンだ…)
そう思ってこの話を切り上げようとしたけど、ケンゾー兄ちゃんの雰囲気が変わったので、ボクはその雰囲気に引き込まれてしまった。
ボクが黙っていると、いつにも増して穏やかな口調でケンゾー兄ちゃんが話し出した。
「チビがそんなときに僕はね…。静かにモノを見ることが出来るんだよ」
「…眼が見えないのに?」
「そうだよ。チビを通してモノを見ることが出来るんだよ」
「・・・・」
「魚を釣ったときも{見て}って言うし、そのあとも、その錦鯉を事細かに説明してきた」
「・・・・」
「賞状のときも{見て}って言いながら、ハイって手渡してきて、金賞の文字はここだよって僕の指を金賞の文字に添えてくれた。そうだったよね? チビ」
「…うん」
「僕は、そのときにハッキリと見えるんだよ…。そして見えたんだよ鮮やかに…。大きくてキレイな錦鯉や賞状が… そしてなにより… チビ… キミがね」
「・・・・」
「チビが前にも、{かわいそう}って何?って僕に聞いてきたことは覚えているかい?」
「うん、覚えてるよ」
「チビの{かわいそう}は、周りとは少し違うんだよ。 前も、そして今もね」
「・・・・」
「チビは、眼が見えないこと、足が無いこと… それ自体を{かわいそう}だとは思っていないんだよ。それが僕やその男の子に心地良さを与えるんだよ」
「・・・・」
「そしてその心地良さは、男の子とチビの間に、僕とチビの間に、心を爽やかに通り抜ける風のような空間を生み出してくれるんだよ」
「・・・・」
「だから、チビはそのままでいいんだよ。そのままで」
「…でも、ケンゾー兄ちゃん?」
「なんだい?」
「そこを超えてない人には… ボクやっぱり… 傷つけたり、怒らせたりするんだよね?」
「・・・・」
「だったら、やっぱりボクはイケないんじゃないの?… やっぱり…」
話していると、なんだかボクは悲しくなって泣きそうになったので、下を向いてしまった。
そんなボクを見守るように、ケンゾー兄ちゃんがボクに向かって大きくゆっくりと頷くのを感じた。
**********
どれくらい時間が経ったのだろう。
伏せていた目をケンゾー兄ちゃんに向けると、そのケンゾー兄ちゃんが柔らかく話しかけてきた。
「チビ?」
「なに?」
「チビは、みんなに好かれようとしてないかい?」
「・・・・」
「そんなこと、する必要はないんだよ」
「どうして?」
「チビが持っている大切なモノに、色が付いてしまうからなんだよ」
「色?」
「そう、色だよ。みんな心の中に、たくさんのフィルターを持っているんだけど、チビの場合は、そのたくさんあるフィルターの中の1枚が、限りなく透明に近いんだよ。もしチビが、みんなに好かれようとしたら、そのフィルターに色が付いてしまうんだよ」
「・・・・」
「だからチビは、そのままでいいんだよ」
「人に、嫌われても?」
「そうだよ」
「人を、傷つけても?」
「心配しなくてもいいんだよ。チビの{かわいそう}は、人を傷つけたりはしないよ」
(・・・・)
「でも、そこを超えていない人には… ダメなんでしょ?」
「それでもチビは、そのままでいいんだよ」
「どうして? ボク、そこを超えるって何のことかわかんないけど… どうして?」
「フッ フッ フッ そこを超えるために… そしてそこを超えさせるために、チビもその男の子も存在してるんだよ」
「・・・・」
「チビとその男の子の、その1枚のフィルターに色が付いてしまったら、そこを超えることも、また超えさせることも出来なくなるんだよ」
「・・・・」
「チビ?」
「なに?」
「チビは前に、スローガンのことで先生とやりあったよね?」
「うん」
「そのあと、先生との関係はどうなったんだい?」
「すごく仲が良くなったよ」
「そういうことだよ。チビ」
なんとなくだけど、わかったような感じがした。
その先生との関係は、たまたまそうだったのかもしれない。
でも、ボクがあのとき叫ばなければ、今の先生との関係はなかった。
これは間違いのないことだ。
(ケンゾー兄ちゃん…)
そしてケンゾー兄ちゃんが…
もう二度と会えなくなるケンゾー兄ちゃんが…
最後の言葉をやさしくボクにかけてくれた。
「チビは、そのままでいいんだよ。わかったね? チビ」
…と。
ケンゾー兄ちゃんが、ボクの方を向いている。
ケンゾー兄ちゃんは、眼が見えないハズなのに…
そのサングラスの向こうから、ボクをジッと見つめる視線を感じた。
(ケンゾー兄ちゃんが、ボクを見ている… ボクを…)
ボクはそのとき、初めて畏怖というものを感じた。
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【質問】
アナタノ キヅカイハ アイテニ キヲツカワセテ イマセンカ?
…ソレヲ キヅカイトヨンデモ ヨイノデスカ?
アナタハ キヅイテモラエルヨウニ キヅカッテ イマセンカ?
…ソノ モクテキハ ナンデスカ?
**********
【少年編《05》ケンゾー兄ちゃん】おしまい。